Japanische Klassiker mit Furigana
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わすれのこりのき
忘れ残りの記
吉川 英治
Lesen Sie 忘れ残りの記 (わすれのこりのき) von 吉川 英治 (よしかわえいじ) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.
N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 193.050 Zeichen · 383 Bildschirme
そしてまばらな家の門や垣を覗いては恐々と声をかけてみる程度しか出来なかった。
これではいつまでも、売上げ成績が良くならないのも当然だった。どうかして二、三円の売上げ日などは奇蹟のようなものである。夕方、売子溜りの問屋へ帰ると、行商手帖と品物とを精算して二割の利益をくれるわけだ。だから三円売れば六十銭になる。前にいた南仲通りの日給の十四銭にくらべれば先ずたいへんな増収だ。けれど、こんな日は月に一度あるか無いかだった。霜解け道を一日じゅう歩き暮らして、三、四十銭しか売れない日の方がはるかに多かった。
それと問屋の話では「女相手の行商だから、雨の日などは、かえって売れる」と聞かされていたが、これもあてにならない事が分った。売子用の貸合羽を日に何銭かで借り、風雨の日も精励したが、膝まで没しそうな新開地のぬかるみを暗くなるまで歩いても、売上げの額はみなおなじだった。のみならず夕方の精算で品汚れを検出され、ただ働きの憂き目を見たりする日もあった。どうにも、こうにも、労多くして利少なく、ベソを掻き掻き帰る夜ばかりが幾月もつづいた。わが家のランプの灯を見るのは毎晩七時すぎになった。