Japanische Klassiker mit Furigana
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わすれのこりのき
忘れ残りの記
吉川 英治
Lesen Sie 忘れ残りの記 (わすれのこりのき) von 吉川 英治 (よしかわえいじ) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.
N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 193.050 Zeichen · 383 Bildschirme
間もなく店員たちの蔭口で知ったが、御しんさんはもと真金町遊廓の神風楼でお職を張っていた全盛の花魁だったとの事である。が、そんな前身は、みじん感じられず、今でいう八頭身型の美人であった上、教養もあるらしく、常に容姿はくずさず、旦那の続木氏と並ぶと御しんさんの方が立派ですらあった。ぼくら丁稚番頭たちは、よくこの美男美女の若い主人夫妻が人力車をつらねて出入りするのを店で送り迎えするのだったが、御しんさんの姿には往来の人も足をとめる程だった。しかし店の通い番頭から奥の者まで、どっちかというと旦那よりはその若くて美しい御しんさんの方にみなビリビリしていた。「御しんさんに嫌われたらこの店には勤まらない」という風がどこかにある。まだ新米の小僧にすぎない身にも、自然世間的な神経がそんな風にぼくを大人びさせ、ぼくも御しんさんから「英吉」とよばれるとき、特に気を働かせたようだった。
他人の家の御飯はこれで二度目の経験である。だから初めて川村印章店へやられた時みたいな幼さはなかった。年老った通い番頭、住込みの若い店員、先輩の小僧中僧などに追い廻されても、けっこう元気でよく働く英どんではあったようだ。