Japanisch lesen

Japanische Klassiker mit Furigana

ja-reading.com

Lesen Sie japanische Klassiker online mit Furigana. Filtern Sie nach JLPT-Niveau, tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung und übersetzen Sie einen Satz.

わすれのこりのき

忘れ残りの記

吉川 英治

Lesen Sie 忘れ残りの記 (わすれのこりのき) von 吉川 英治 (よしかわえいじ) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.

N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 193.050 Zeichen · 383 Bildschirme

Aozora Bunko

行ってみると母すら力を失って仆れていた。きのうから一食もせず、雨戸も開けず一日を唯飢えの中に、墓場のように寝ていたというのである。

今のような民生委員制度も何もないあの時代では、おそらく一家が餓死しても、餓死した後でなければ、近所隣りも気がつかなかったであろう。又、そうなるまで、なす術も工夫も知らないぼくの両親ではあった。だから、ぼくの後からすぐ蕎麦屋の出前持ちの景気のいい声と共に、そこへ運ばれて来た蕎麦のカケは起死回生の物だった。まったく、どんな歓喜と慄えつくようなよろこびでそれを啜り合ったことか。それを今、思い出そうと努めても思い出せない。昨日の事に過ぎないあの終戦後の餓鬼道にちかい味覚や雑多な体験も、ぼくらはもう忘れかけている。と同様に、その折の記憶は前世紀層化してしまっているようだ。唯、忘れ難いというだけのものを残して生きつづけて来た。忘却は救いだが、思えばぼくを横着な者にもしている。

牛缶一個を切り、その汁にまで湯を注いで皆で飲み合い、ぼくは一先ず安心して店へ帰った。それはいいが、慌てた余りに、ぼくがあても無しに蕎麦をあつらえて行った為、母はそれから幾日間、何杯かのカケ蕎麦の代が払えず、毎日出前持ちに門口に立たれて催促され、あんなに困ったことはないと、後々もよく笑いばなしにした。