Japanische Klassiker mit Furigana
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わすれのこりのき
忘れ残りの記
吉川 英治
Lesen Sie 忘れ残りの記 (わすれのこりのき) von 吉川 英治 (よしかわえいじ) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.
N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 193.050 Zeichen · 383 Bildschirme
支店の店先へも、のべつ海軍の下士官や主計が来て註文したり話しこんでゆく。時には店先でビールなど開け、剽軽な和平どんという若い店員が盛んに馬鹿ばなしをして笑わせた。横浜本店よりここは陽気で活気があり、夜は戸を下ろして皆、遊びに出かけるので、ぼくにも自由な時間があった。
思うに、この頃は、やっとぼくの頬にも、少年らしい頬の色と快活さが蘇っていたのではあるまいか。何といっても、遠くへ離れると、そう家の事もくよくよしないし忘れがちになれた。それと、支店詰は一人のおもしろい爺やと女中と若い店員ばかりな上に、出入りの客はすべて海軍の連中なので、少年のメランコリーなど抱くひまもなかった。ぼくはよく註文取りのオヒゲという綽名のある番頭の伊東さんや和平どんに尾いて、碇泊中の軍艦をあるいた。海軍波止場からランチに乗って各軍艦の酒保へ行き、酒保で御馳走になったり、みなの馬鹿ばなしを側で聞いてるだけだった。「この頃、神風楼のお職さんは、支店に来ないのか」と、おとくいの酒保の下士官が云ったりすると、和平どんは、主人夫婦の古いロマンスやら、まるで覗いて見たような閨中の睦じさまでを、冗談交じりに喋ったりした。