Japanisch lesen

Japanische Klassiker mit Furigana

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わすれのこりのき

忘れ残りの記

吉川 英治

Lesen Sie 忘れ残りの記 (わすれのこりのき) von 吉川 英治 (よしかわえいじ) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.

N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 193.050 Zeichen · 383 Bildschirme

Aozora Bunko

母は父のすることに徒らな反対をする人でもないのに、貧乏以来は父も多少の気がねを持つ風であった。だから折角の日進堂を店員まかせにして、べつな方面へ金を注いだり、生糸相場に手を出している事など、父の行動は一切、母には知らされていなかった。ただ時折「……ほんとに得手勝手なお父さんね。病気をしてもお金を持っても」と、ぼくら子供と一しょにする食事時に、ふとこぼすぐらいが関の山の愚痴だった。

父がまた以前のつきあい仲間へ顔を出し初めて、それの見得も伴ったり、一方では、生糸相場でも損に損を追っていたことだったろう。一時持った金は一年とたたないままに失くしていたと、母は後に語っていた。そして後には従来からあった店付きの負債と新しい借金だけが残り、その断りが毎日の店頭業務みたいに続いた。

けれど、ぼくにとっては、それらの債鬼の客も、一こう恐くも何ともなかった。何も知らない儘「今日は誰も留守です」とか「何日に来て下さい」とか云われた通りを云っていればよいのである。四人居た店員も、水野君一人になってしまい、その水野君も債鬼の恐れを感じると、外交歩きに出て晩まで帰って来ない。