Japanische Klassiker mit Furigana
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わすれのこりのき
忘れ残りの記
吉川 英治
Lesen Sie 忘れ残りの記 (わすれのこりのき) von 吉川 英治 (よしかわえいじ) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.
N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 193.050 Zeichen · 383 Bildschirme
当時、広告図案には、銅版がよく使われていたが、挿絵にはまだ凸版が用いられていなかったものとみえる。原画は薄い雁皮紙にかぎられていて、桜の版木に直接ノリ貼りされた画稿の上から、小さい鑿のさきが、一線一線絵を彫り起してゆくのだった。毎日のことだし、たいへんな苦労に見えた。――そしてすぐ翌日か翌々日には、それが小説と共に次々の紙面に掲載されて来るのを見、ぼくは印刷文化の構成やその中の小説欄というものに、何か、ものを知ったような気がしたものだった。
はっきり何年何月から何月までという記憶が、ぼくの今にはない。が、自分の十七歳はまるまるそこで送ったようだ。そして誰の少年期にもあるように、尾上町時代のぼくには、尾上町附近での好きな少女の印象が幾ツかある。当時の横浜銀座ともいえる鉄の橋のすぐそばに関川歯科医院というのがあり、そこの令嬢が夢二の少女みたいに見えた。又、馬車道から大江橋通りへ曲がった商店街の一軒に、老舗の履物屋があって、そこの娘も好きであった。恋などとよぶほどこっちも大胆ではなく、ただ町の柳の揺れまでが、やたらに少年の感傷を染め、未熟な詩心の眸を妖しく悩ませていただけにすぎない。