Japanische Klassiker mit Furigana
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わすれのこりのき
忘れ残りの記
吉川 英治
Lesen Sie 忘れ残りの記 (わすれのこりのき) von 吉川 英治 (よしかわえいじ) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.
N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 193.050 Zeichen · 383 Bildschirme
森公はまた頗る達者で病気一つした例しはなく、十年一日の如く、その生活定石も崩したことがないという。
だから皆から小馬鹿にされていた。けれど六部では一番の古顔だそうで、通勤にはいつもチックで入念に髪を分け、悪くとも背広は着ていた。どうかすると細いステッキを伊達に掻い込み、独りニヤニヤ反り身で帰りを急いで行くことがある。「行くのか」と仲間からからかわれると、ぼくより背の低い体を反らして「もち!」と得意になっていう。「あいつはもう四十六、七だぜ、一生ドックの古顔で、一生真金町(遊廓)へセッセと運んで行くんだなあ」と、仲間の誰かが云っていた。
彼の如き独身者は稀れで、女房持ちの方が多かった。十年二十年の勤続者も少なくない。毎日がこんな危険な仕事なのに、よく長の年月、怪我も死にもしないものだと思われた。会社の弔慰金などは雀の涙ほどしか出ない。泣き寝入りというよりは労働階級全般が今日のような自覚も組織も持たなかった時代である。あとの女房子はどうなるつもりで皆いるのだろう。この船具部もふくめて全工場での死者怪我人の数を統計にとれば、年間たいへんな数に昇るにちがいない。