Japanische Klassiker mit Furigana
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わすれのこりのき
忘れ残りの記
吉川 英治
Lesen Sie 忘れ残りの記 (わすれのこりのき) von 吉川 英治 (よしかわえいじ) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.
N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 193.050 Zeichen · 383 Bildschirme
三島由紀夫氏の「仮面の告白」だったかに、自分が生れたとき産湯を使わせられた盥の木肌を透して、まばゆい湯の揺れや金輪の光が金色に見えた、というような描写があった。また長谷川如是閑氏の「心の自叙伝」の序説には、自分が胎内にいるときの感覚をもっと精細に書いている。産婆の手でつかみ出されて、産湯の上で縦横無尽に振り廻されて眼が廻ったとき、その硬い手の残虐さに対する憤りと、無性な恐ろしさに襲われて、思わず初めて絶叫を発したという風にである。
もちろん、こういった例は、記憶ではない。文学である。が、その底流にはやはり想像を借りた人間共通の意欲が見られる。モームの「人間の絆」にしてもそうで、たとえば「人生に意味などは何もない。ただ環境への物理的作用として現われたものに過ぎない。生も無意味、死も無意味、ひっきょう人生は一つの模様意匠だ。行動も感情も好みの意匠で、織りなしてゆけばいい」という。しかし、その割切った考え方に到達するまでには、彼もおなじ空白への想像や郷愁をつい書いているのである。そしてモームがやっと見つけたという虚無の安住なる居場所で云っている哲学的科白が、どうかすると東洋の禅坊主の喝破や隠棲者のつぶやきと一致したりしているのは思想上の奇観でもある。