Japanische Klassiker mit Furigana
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わすれのこりのき
忘れ残りの記
吉川 英治
Lesen Sie 忘れ残りの記 (わすれのこりのき) von 吉川 英治 (よしかわえいじ) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.
N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 193.050 Zeichen · 383 Bildschirme
「もう、家の事は心配しないで……。お母さんの事も。……それより、おまえは、もう、おまえだけの方針を取って、苦学するなり、東京で働き口をみつけるなりしておくれ」
母は、そう云って、急に、あらたまった口ぶりで、
「有難うよ。……英ちゃん、長い間、よく働いてくれたわね、もうおまえは、おまえの道を進まなければ」
それから十分か十五分後に、看護婦が昼の食事か何か持って入って来るまでは、ぼくは母の胸から顔を離さずにいた。看護婦の山田さんに、母はいつも何か心づけの物を持って来ては、息子のみとりを、心から頼んで帰るのだった。吉田町の家へ移ってからも、家計の内面は依然火の車だったろうし、父の性情も急に変ったわけではないから、病院へ来ても、その後は、母も顔を見るだけで、いつもせかせか帰りを急いだ。けれど、それっ切り何も云わなかったが、母の気もちと、ぼくの心は、ここを出ないうちに、かたく極まっていた。
退院したのは、十二月の末だった。
さすが、ぼくの健康で家に帰った姿を見ると、父も「よかった」と何度も云って、しんから欣しそうだった。
その機嫌を外さないうちにと、その日か翌日のうちに、ぼくは改まって、父の前へ、日頃の希望をのべてみた。