Japanisch lesen

Japanische Klassiker mit Furigana

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わすれのこりのき

忘れ残りの記

吉川 英治

Lesen Sie 忘れ残りの記 (わすれのこりのき) von 吉川 英治 (よしかわえいじ) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.

N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 193.050 Zeichen · 383 Bildschirme

Aozora Bunko

「家出して来たのか」と、まず訊ねた。「いいえ、母も承知の上で、苦学しに出たのです」と、有りの儘をぼくは答えた。そして、駄目だとは思いながら、

「どこか、塾の学僕か、学校の小使みたいな口はないでしょうか。書生に置いて下さる所があれば、なおいいんですが」

と、志望をのべた。

けれど伯父は全然受けつけはしなかった。無断で出京したに違いないと見、流行の苦学亡者を諭戒するような語で、あたまからぼくを叱った。「まして、おまえの家では、おまえが居なくなったら、困るじゃないかね。お父さんは働けん人だというし、おいくさんだって、まだ小さいのを沢山抱えている所だし」と云ったりした。そして「汽車賃だけは上げるから、帰んなさい。帰って、家の手助けをせにゃ不可ん。おまえは、おいくさんの長男ではないか」と云うのみで、何も耳には入れてくれないし、又ぼくも、ここまで来る途々考え抜いていた事の一端すらも、口に出すことが出来ずにしまった。

訪れた悔いをその儘抱いて、ぼくは夜半の一時頃、斎藤家の門をすごすご辞した。金も無いが、もう電車も通っていない。青山の果てから本所の果てまで、又ぶらんぶらん歩いて帰った。