Japanisch lesen

Japanische Klassiker mit Furigana

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わすれのこりのき

忘れ残りの記

吉川 英治

Lesen Sie 忘れ残りの記 (わすれのこりのき) von 吉川 英治 (よしかわえいじ) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.

N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 193.050 Zeichen · 383 Bildschirme

Aozora Bunko

書斎は例年のごとく、この月十日より軽井沢へ移す。

八月、例年になく、ここでも健康は依然思わしからず、夜々烈しい咳痰に悩まされて睡眠も浅く、異状ただならぬ容体をひそかに思う。しかし、恒例の小生の誕生日ゴルフの前夜祭には、来会者五十五名、新しいゲストには川端康成、壺井栄氏らも加わり、初会以来出張の「きかく寿司」の主人もほとんど用意の寿司米の最後の一握りまで握り尽す。下旬、東京より懇意のH医師来遊。幸いに、診察を乞い、また採血を託して、以後の診察を待つ。沙汰なし。このころより咳痰に血線を見る。

九月「私本太平記」の完結、あといくばくもなし。一日一回の稿も、ようやく心身を削るの思いをなす。厠に立ちては中二階の階段をはうて机に戻るの有様に至る。血痰も日ごとに濃く、疲労はなはだし。頃来ハーフのコースもついに回りがたくなり、食欲、体重、すべて減る。軽井沢診療所より日々往診を乞うて当座の注射などを受けつつ稿をつづけ、からくも月末二十七日、最後の一稿を毎日の村松学芸部長に手渡して、何かと連載四年間の社の好意を謝す。さらに同夕刻までに、添田知道氏の依頼による一俳人の句碑、また一読者の墓碑、そのほか、色紙額面などの依頼物の揮毫を一気に果し終わって、心の荷を下ろす。