Japanische Klassiker mit Furigana
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わすれのこりのき
忘れ残りの記
吉川 英治
Lesen Sie 忘れ残りの記 (わすれのこりのき) von 吉川 英治 (よしかわえいじ) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.
N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 193.050 Zeichen · 383 Bildschirme
喰べた気がしない」といって怒った。乱酔しているばあいは、そんな些事をきっかけに、母をそこへおいて、一時間も二時間も飲みつつ日頃の叱言や母の親類のざんそまでを並べるのである。もし母が口ごたえでもすれば「出てゆけ」となり、時により腕力をふるい出す。まったく手のつけられない暴君になってしまう。
だから微酔のうちの上機嫌な父はいいが、怪しくなると、ぼくら子供を初め、家の内は颱風下の停電みたいなものになる。ぼくは十一、二歳だったからまだよかった。義兄の政広は優形の美青年である。「政広、ここへ来い」となると、父の荒い酒気の前におかれて、義兄は油をしぼられた。「大体、貴さまは柔弱でいかん」というのが毎度のお談義の主題であったようである。何を怒られたのか、ある時は、「腹を切れ」とか何とか云われて、女形みたいな義兄が蒼白になった儘、泣いているのを見たこともあった。
家には刀剣などもあったらしい。母は、万一を惧れて、刀の隠し場所に、恟々としていた。いちどなどは、十日も居所不明にしていた父が、やっと帰って来たと思うと、父が囲っていたお琴という関内芸妓や茶屋の女将などと一しょに帰って来、さらに母へ酒のしたくをいいつけた。