Japanisch lesen

Japanische Klassiker mit Furigana

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はたもとたいくつおとこ

旗本退屈男

佐々木 味津三

Lesen Sie 旗本退屈男 (はたもとたいくつおとこ) von 佐々木 味津三 (ささきみつぞう) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.

N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 240.656 Zeichen · 478 Bildschirme

Aozora Bunko

今宵からまたみなさん気の揉める方がお出来でありんしょう。――わちきも水がほしゅうなりました」

呼ぶ声、言う声、いずれもひそかな恋を隠した渇仰の声です。――また無理もない。旅に出る前までは、まる三カ年間、夜ごと宵々ごとに五丁町のこうしたそぞろ歩きを欠かしたことのない主水之介でした。その早乙女の退屈男が半年ぶりにふうわりとまた天降って来たのです。しかも、あの三日月型の傷痕は、長の旅風に洗われて愈々凄艶に冴えまさり、迫らず急がず、颯爽として行く姿の水際立った程のよさ! ――犬は尾を巻いてこそこそと逃げ隠れ、風も威風に打たれたものか、ピタリと鳴りを静めて、まばたく灯影も主水之介ゆえに、まぶしく輝き出したのではないかと思われるようなすばらしさでしたから、気の揉める者も出来るであろうし、胸が騒いで、咽喉が乾いて、急に水のほしくなった者が二人や三人でたのは当り前でした。

しかし、当の主水之介は只黙々として、心の髄までがいかにもしんしんと寂しそうでした。

覗くのでもない。

登るのでもない。

漫然として当もなく只ぶらぶらと灯影の下を縫って行くのです。――さながらにその心は、ひとりわびしくしみじみと旅情をでも味わっているかのようでした。