Japanische Klassiker mit Furigana
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にちりん
日輪・春は馬車に乗って 他八篇
横光 利一
Lesen Sie 日輪・春は馬車に乗って 他八篇 (にちりん) von 横光 利一 (よこみつりいち) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.
N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 86.787 Zeichen · 177 Bildschirme
いい子ね、坊ちゃんは。」
灸は障子が閉まると黙って下へ降りた。母は竈の前で青い野菜を洗っていた。灸は庭の飛び石の上を渡って泉水の鯉を見にいった。鯉は静に藻の中に隠れていた。灸はちょっと指先を水の中へつけてみた。灸の眉毛には細かい雨が溜り出した。
「灸ちゃん。雨がかかるじゃないの。灸ちゃん。雨がよう。」と姉がいった。
二度目に灸が五号の部屋を覗いたとき、女の子はもう赤い昨夜の着物を着て母親に御飯を食べさせてもらっていた。女の子が母親の差し出す箸の先へ口を寄せていくと、灸の口も障子の破れ目の下で大きく開いた。
灸はふとまだ自分が御飯を食べていないことに気がついた。彼は直ぐ下へ降りていった。しかし、彼の御飯はまだであった。灸は裏の縁側へ出て落ちる雨垂れの滴を仰いでいた。
「雨こんこん降るなよ。
屋根の虫が鳴くぞよ。」
河は濁って太っていた。橋の上を駄馬が車を輓いて通っていった。生徒の小さ番傘が遠くまで並んでいた。灸は弁当を下げたかった。早くオルガンを聴きながら唱歌を唄ってみたかった。
「灸ちゃん。御飯よ。」と姉が呼んだ。
茶の間へ行くと、灸の茶碗に盛られた御飯の上からはもう湯気が昇っていた。