Japanische Klassiker mit Furigana
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にちりん
日輪・春は馬車に乗って 他八篇
横光 利一
Lesen Sie 日輪・春は馬車に乗って 他八篇 (にちりん) von 横光 利一 (よこみつりいち) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.
N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 86.787 Zeichen · 177 Bildschirme
お前は夕べから、ちっとも眠っていないじゃないか。」
「あたし、どうしても眠れないの。あたし、今日は苦しくなければ、うんとお饒舌したいんだけど。」
「いや、もう黙っているがいい、俺はここについていてやるから、眼だけでも瞑っていれば休まるだろう。」
「じゃ、あたし、暫く眠ってみるわ。あなた、そこにいて頂戴。」
「うむ。」と彼はいった。
妻が眼を閉じると、彼は明りを消して窓を開けた。樹の揺れる音が風のように聞えて来た。月のない暗い花園の中を一人の年とった看護婦が憂鬱に歩いていた。彼は身も心も萎れていた。妻の母はベランダの窓硝子に頬をあてて立ったまま、花園の中をぼんやりと眺めていた。もう何の成算も消え失せてしまったように。遠くの病舎のカーテンの上で、動かぬ影が萎れていた。時々花壇の花の先端が、闇の中を探る無数の青ざめた手のように揺らめいた。
十三
その夜、満潮になると、彼の妻は激しく苦しみ出した。医者が来た。カンフルと食塩とリンゲルが交代に彼女の体内に火を点けた。しかし、もう、彼女は昨日の彼女のようにはならなかった。ただ最後に酸素吸入器だけが、彼女の枕元で、ぶくぶく泡を立てながら必死の活動をし始めた。