Japanische Klassiker mit Furigana
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にちりん
日輪・春は馬車に乗って 他八篇
横光 利一
Lesen Sie 日輪・春は馬車に乗って 他八篇 (にちりん) von 横光 利一 (よこみつりいち) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.
N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 86.787 Zeichen · 177 Bildschirme
そうして、森や草叢の木立の姿が、朝日の底から鮮かに浮き出して来るに従って、煙の立ち昇る篠屋からは木を打つ音やさざめく人声が聞えて来た。しかし、石窖の中では、卑弥呼は、格子を隔てて、倒れている訶和郎の姿を見詰めていた。数日の間に第一の良人を刺され、第二の良人を撃たれた彼女の悲しみは、最早や彼女の涙を誘わなかった。彼女は乾草の上へ倒れては起き上り、起きては眼の前の訶和郎の死体を眺めてみた。しかし、角髪を解いて血に染っている訶和郎の姿は依然、格子の外に倒れていた。そうして、再び彼女は倒れると、胸に剣を刺された卑狗の姿が、乾草の匂いの中から浮んで来た。彼女はただ茫然として輝く空にだんだんと溶け込む霧の世界を見詰めていた。すると、今まで彼女の胸に溢れていた悲しみは、突然憤怒となって爆発した。それは地上の特権であった暴虐な男性の腕力に刃向う彼女の反逆であり怨恨であった。彼女の眼は次第に激しく波動する両肩の起伏につれて、益々冷たく空の一点に食い入った。ふとその時、草叢の葉波が描いた地平の上から立昇っている一条の煙が彼女の眼の一角に映り始めた。それは薄れゆく霧を突き破って真直ぐに立ち昇り、渦巻きながら円を開いて拡げた翼のようにだんだんと空を領している煙であった。