Japanische Klassiker mit Furigana
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やなぎばしものがたり
柳橋物語
山本 周五郎
Lesen Sie 柳橋物語 (やなぎばしものがたり) von 山本 周五郎 (やまもとしゅうごろう) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.
N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 104.300 Zeichen · 202 Bildschirme
「ああいい子でちゅいい子でちゅ、ああちゃんいい子ね、はい召上れ」
「といで、ね、こうぼといでよ」
木匙は持たせるがまだ独りでは無理だ。しかし誕生からみ月にはなるらしいし、ぜんたいにませた生れつきとみえて、お膳のまわりを粥だらけにしても独りで喰べないと承知しない。今夜はやしなってやりたかったが、どうしてもきかないので好きにさせた。自分も冷たい残りの粥に、幸太郎の卵雑炊を少しかけ、別れの膳という気持で箸を取った。
家を出たのは七時ごろであろう。着ぶくれて眠ったのを背負い、包を抱えて、暗い露次づたいに表通りへ出ると、知った人にみつからないように、気をくばりながら浅草寺のほうへ歩いていった。風もないし、その季節にしては暖かい夜だった。そのためか往来の人もかなりあるし、腰高障子の明るい奈良茶の店などでは、酔って唄うにぎやかな声も聞えた。――もうなんにも思うのはよそう、ただこの子の仕合せだけを祈っていよう。自分の心のこえから耳を塞ぐような気持で、繰り返しそう呟いた。胸が痛み、動悸が高く激しくなる、だがおせんは唇を噛みしめ、俯向いて、ときおり頭をつよく横に振ったりしながら、追われる者のようにひたすらに歩いていった。