Japanisch lesen

Japanische Klassiker mit Furigana

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ろうごくのはなよめ

牢獄の花嫁

吉川 英治

Lesen Sie 牢獄の花嫁 (ろうごくのはなよめ) von 吉川 英治 (よしかわえいじ) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.

N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 162.213 Zeichen · 325 Bildschirme

Aozora Bunko

わしがはやく、気をつければよかったんじゃ」

「オイ、そこにいる若えの」

舟辰は、忌々しそうに、近くの河岸に繋っている船頭へたずねてみた。

「――今、この船の中から、若い女を連れ出した奴があるんだが、誰か、そいつを、見かけた者はねえかい」

「女?」

と、附近の舟の者たちは、顔を見あわせて、

「――知らねえなあ。ただ、いつも見かけねえウロ舟(物売り舟)がそこへ寄って、何か、していたように思ったが、そのうちに、いなくなってしまったなあ」

「それだ」

と、老先生は、きっぱりと諦めて、

「――もう追うのは愚だ。それよりは、何か手懸りになるような物でも落ちていないか」

「おや? ……老先生」

舟辰が、しゃがみ込んで眼を瞠ったので、老先生も、腰をかがめて、視線を寄せた。

一枚の紙片が、小舟の横に、貼りつけてあった。見ると、それは、老先生の眼ですら違う点を見出せないほどそッくりな字だ。わが子郁次郎の手蹟にそっくりな筆癖なのである。

父上よ。――

父上はなぜにかくまでわが子を苦しめ給うや。

わが子の愛を思し給わば、益なき妄動をやめ給え。年寄の冷水、夢、妄動をやめたまえ。

子たる余は、老父と闘うにしのびずといえども、老父、なお余を苦しめたまわば、余の悪霊はその時ごとに獄内をしのび抜けて、泣きつつも、闘わざるべからず。