Classiques japonais avec furigana
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にちりん
日輪・春は馬車に乗って 他八篇
横光 利一
Lisez 日輪・春は馬車に乗って 他八篇 (にちりん) de 横光 利一 (よこみつりいち) en japonais avec furigana. JLPT N2. Touchez un mot pour le sens.
N2 · avancé · kanji et kana modernes · 86 787 caractères · 177 écrans
あたりに煙が籠(こも)っていた。そして、真黒に焼けて輪をはじけさせている提灯を中心に、枕元の畳の焦げた黒い部分が子の寝ていた枕の直ぐ傍で拡(ひろ)がって来ていた。鉢は焼け残った子の着物の上にひっくり返っていた。子は瞑(つぶ)りかけた眼で焦げた畳を眺めていた。そして首を些っと横に振ると、母の拡(ひろ)がっている襟(えり)もとへ顔を擦(す)りつけるようにしてかすれた声で
「早よう眠よう。」
といってまた眼を閉じた。母は黙っていた。その中(うち)に彼女の眼が潤(うる)んで来た。
「ランプはもう要(い)りませんか。」
と先生がいった。母はやはり黙って少し前へ身体を動かした。
先生も黙って下へ降りて行った。室(へや)の中が暗くなると、母は子を一層強くだいた。そして長らくして、
「虫が報(し)らせたのやわ。」
と小さい声で呟(つぶや)いた。子はもういびきを立てていた。
底本:岩波文庫「日輪 春は馬車に乗って 他八篇」岩波書店
1981(昭和56)年8月17日第1刷
1997(平成9)年5月15日第23刷
入力:大野晋
校正:田尻幹二
ファイル作成:野口英司
1999年7月9日公開