Classiques japonais avec furigana
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にちりん
日輪・春は馬車に乗って 他八篇
横光 利一
Lisez 日輪・春は馬車に乗って 他八篇 (にちりん) de 横光 利一 (よこみつりいち) en japonais avec furigana. JLPT N2. Touchez un mot pour le sens.
N2 · avancé · kanji et kana modernes · 86 787 caractères · 177 écrans
――恐らく、妻は死ぬだろう。
彼は妻を寝台の横から透かしてみた。罪と罰とは何もなかった。彼女は処女を彼に与えた満足な結婚の夜の美しさを回想しているかのように、端整な青い線をその横顔の上に浮べていた。
二
彼と妻との間には最早悲しみの時機は過ぎていた。彼は今まで医者から妻の死の宣告を幾度聞かされたか分らなかった。その度に彼は医者を変えてみた。彼は最後の努力で彼の力の及ぶ限り死と戦った。が、彼が戦えば戦うほど、彼が医者を変えれば変えるほど、医者の死の宣告は事実と一緒に明克の度を加えた。彼は萎れてしまった。彼は疲れてしまった。彼は手を放したまま呆然たる蔵のように、虚無の中へ坐り込んだ。そうして、今は、二人は二人を引き裂く死の断面を見ようとしてただ互に暗い顔を覗き合せているだけである。丁度、二人の眼と眼の間に死が現われでもするかのように。彼は食事の時刻が来ると、黙って匙にスープを掬い、黙って妻の口の中へ流し込んだ。丁度、妻の腹の中に潜んでいる死に食物を与えるように。
あるとき、彼は低い声でそっと妻に訊ねてみた。
「お前は、死ぬのが、ちょっとも怖くはないのかね。