Classiques japonais avec furigana
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ずいひつ みやもとむさし
随筆 宮本武蔵
吉川 英治
Lisez 随筆 宮本武蔵 (ずいひつ みやもとむさし) de 吉川 英治 (よしかわえいじ) en japonais avec furigana. JLPT N2. Touchez un mot pour le sens.
N2 · avancé · kanji et kana modernes · 141 786 caractères · 278 écrans
ところが、夜になると、ほとんど毎夜のように、番小屋の囲りを人の駈ける跫音が、追いつ追われつ駈け巡るというのである。戸を開けて見ると何も見えない。枕につくとまた、凄まじい勢いで人が駈ける、人が追う、果てしなく家のまわりを駈けめぐる。
番人の婆さんは気が狂って死んでしまった。残った爺さんの方も、郷里へ逃げ帰ってしまった。今でもそこの大松の下に、番人の爺さんが供養に建てた小さな祠が残っている。――だから武蔵に打たれた巌流は、今でも成仏していないに違いない……。
こういう船頭ばなしに近い話は、拾えばまだ幾らもあるらしいのである。以て、宮本武蔵と佐々木小次郎の遺跡に対する、この地方の土俗的な観念は窺うことができるというものである。延命寺山の武蔵の碑についても、同様な類の口碑は二、三聞いた。――しかしそこの武蔵の碑文は、いわゆる「小倉碑文」として武蔵研究家のあいだには必ず例用されている一史料ではあるし、また、巌流島の試合から約九年後に、養子の伊織が、養父武蔵の親友春山和尚に原文を書いてもらって建てた物という立証も正しく分っているものなので、巌流の苔石ほど、時代は経っていても、そう妖気めいた伝説は附会する余地がない。