Classiques japonais avec furigana
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たまものまえ
玉藻の前
岡本 綺堂
Lisez 玉藻の前 (たまものまえ) de 岡本 綺堂 (おかもときどう) en japonais avec furigana. JLPT N2. Touchez un mot pour le sens.
N2 · avancé · kanji et kana modernes · 130 703 caractères · 261 écrans
三
阿弥陀如来の尊像はくすぶるばかりの香りの煙りにつつまれた。その渦まく煙りのなかに浮き出している円満具足のおん顔容は、やはり玉藻の笑顔であった。阿闍梨は数珠を投げすてて跳り上がりたいほどに苛いらしてきた。彼のひたいからは膏汗がたらたら流れた。
「銅鑼を打て。鐃鉢を鳴らせ」
いろいろの手段によって漲り起こる妄想を打ち消そうとあせったが、それもこれも無駄であった。あせればあせるほど、彼の道心をとろかすような強い強い業火は胸いっぱいに燃え拡がって、玉藻のすがたは阿闍梨の眼先きを離れなかった。日ごろ嘲り笑っていた志賀寺の上人の執着も、今や我が身の上となったかと思うと、阿闍梨はあまりの浅ましさと情けなさに涙がこぼれた。庭の上にも阿闍梨の涙とおなじような雨がほろほろと降ってきた。
彼は法衣の袖に涙を払って、もう一度恐る恐るみあげると、如来のお顔はやはり美しい玉藻であった。一代の名僧の尊い魂はこうして無残にとろけていった。
三
「きょうはきついお世話でござりました」
法性寺の門を出ると、玉藻は兼輔に言った。兼輔もきょうの首尾を嬉しく思った。
「頑固な叔父御もお身に逢うてはかなわぬ。