Classiques japonais avec furigana
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たまものまえ
玉藻の前
岡本 綺堂
Lisez 玉藻の前 (たまものまえ) de 岡本 綺堂 (おかもときどう) en japonais avec furigana. JLPT N2. Touchez un mot pour le sens.
N2 · avancé · kanji et kana modernes · 130 703 caractères · 261 écrans
「兼輔、まだそこにか」
また引っ返して来たのかと、兼輔は肚のなかで舌打ちした。そうして、暗いのを幸いに、黙ってそこをすり抜けて行こうとすると、水明かりで早くもそれと認めた実雅は、これも無言で駈けつけて、彼が直衣の袖を力任せにぐいと曳いた。たとい平安時代の殿上人にもせよ、実雅はともかくも武人の少将である、しかも力自慢の大男である。その大男に強くひかれて、孱細い左少弁は意気地もなくへなへなとそこに引き据えられた。
「やい、兼輔。関白殿の花の宴の夜に、おのれひねり潰してくれようと思うていたが、あいにくの嵐に邪魔されて、そのままに助けて置いたをありがたいとも思わずに、女にむかって人もなげなる広言を吐き散らしたそうな。やい、食らい肥りの貧乏公家とは誰がことじゃ。おれの前で、もう一度確かに言え」
「そりゃ無体の詮議じゃ。われら夢にもさようなことを……」と、兼輔はあわてて打ち消そうとするのを、哮り立った実雅は耳にもかけないで、嵩にかかって又呶鳴った。
「ええ、なにが無体……。おのれは舌がやわらかなるままに、口から出るに任せてさまざまの雑言をならべ、この実雅を塵あくたのように言いおとしめたことを、おれはみな知っている。