Classiques japonais avec furigana
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たまものまえ
玉藻の前
岡本 綺堂
Lisez 玉藻の前 (たまものまえ) de 岡本 綺堂 (おかもときどう) en japonais avec furigana. JLPT N2. Touchez un mot pour le sens.
N2 · avancé · kanji et kana modernes · 130 703 caractères · 261 écrans
して、その乙女は何者でござるな。身はうき草の根をたえて、水のまにまに流れてゆく、藻とは哀れに優しい名じゃ」と、彼は再びその料紙を手にとり上げて、見とれるように眺めていた。
それがさきに勅勘を蒙った坂部庄司蔵人行綱の娘であると言い聞かされて、信西はまた眉を皺めた。彼は蔵人行綱の名を記憶していなかった。自分の記憶に残っていないくらいであるから、行綱の人物も大抵知れてあるように思われた。その行綱がこれほどの才女を生み出したというのは、世にも珍しいことである。彼もその藻という乙女をひと目見たいと思った。
「では、その乙女をきょう召されましたか」
「大納言のことばによれば、世にたぐいないかとも思わるるほどの美しい乙女じゃそうな。一度逢うて見たいと思うて、きょう呼び寄せた。もうやがて参るであろうよ」
幾分か優柔という批難こそあれ、忠通は当代の殿上人のうちでも気品の高い、心ばえの清らかな、まことに天下の宰相として恥ずかしからぬ人物であった。彼は色を好まなかった。年ももう四十に近い。美しい乙女ということばが彼の口から出ても、それが何のけしからぬ意味をも含んでいないことは相手にもよく判っていた。