Classiques japonais avec furigana
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たまものまえ
玉藻の前
岡本 綺堂
Lisez 玉藻の前 (たまものまえ) de 岡本 綺堂 (おかもときどう) en japonais avec furigana. JLPT N2. Touchez un mot pour le sens.
N2 · avancé · kanji et kana modernes · 130 703 caractères · 261 écrans
狐はむろん逃げてしまった。当の獲物を射損じたばかりか、事に臨んで弓弦が切れたのは平生の不用意も思いやらるるとあって、彼は勅勘の身となった。彼は御忠節を忘れるような人間ではなかった。武士のたしなみを怠るような男でもなかった。こうなるのも彼が一生の不運で、行綱は妻と娘とを連れて、この頃では京の田舎という山科郷の片はずれに隠れて、わびしい浪人生活を送ることになった。
彼の不運を慰めるはずの妻は、それから半年あまりの後に夫と娘とを振り捨ててあの世へ行ってしまった。まだ男盛りの行綱は二度の妻を迎えようともしないで、不自由な男やもめの手ひとつで幼い娘の藻を可愛がって育てた。美しい顔をもって生まれた藻は心までが美しかった。自分にもう出世の望みのない父は、どうしても自分の後つぎに取りすがるよりほかはないので、行綱は老後の楽しい夢を胸に描きながら、ひたすらに娘の生長を待っていた。藻はことし十四になった。
その年の春に、行綱は娘を連れて清水の観音詣でに行った。その時にいわゆる三年坂でつまずいたのがもとで、彼は三月の末から病いの床に横たわる身の上になった。夏が過ぎ、秋が来ても、彼はやはり枕と薬とに親しんでいるので、孝行な藻の苦労は絶えなかった。