Classiques japonais avec furigana
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ずいひつ みやもとむさし
随筆 宮本武蔵
吉川 英治
Lisez 随筆 宮本武蔵 (ずいひつ みやもとむさし) de 吉川 英治 (よしかわえいじ) en japonais avec furigana. JLPT N2. Touchez un mot pour le sens.
N2 · avancé · kanji et kana modernes · 141 786 caractères · 278 écrans
かつて人の足に踏ませない苑内なので、ここの庭苔は実に眼醒めるばかり鮮やかであった。苔の香いというものを私はここで初めて咽せるほど知った。京都や奈良辺りの名園にもこんな苔の見事な庭は見たことがない。
「これをお穿きくださいまし」
と、カーキ色の洋袴を穿いて手拭をバンドに挟んでいる除隊帰りのような留守番の園丁は、下駄ばきの連れの者に、草履を与えてから案内に立った。
旧は庫裡でもあったらしい古い建物の裏を通って、飽くまで苔深くつづく低い石段を、山にそって少し登ってゆく。この泰勝院は前にもいったとおり龍田山の麓に拠っているので、今私たちの登っている石段や崖道は、もうその山の一部にかかっているらしい。
急に冷んやりと山蔭の寒さを覚えた。疏林で囲まれた落葉の平地に、幾つかの墓標がわびしく見える。中には楕円形の大きな玉石の碑が、訪う人もなく苔に埋もれていた。近づいて苔の凹みを探って見ると、
寛文十三年丑正月一日 春山禅師
と微かに読まれた。
何と往生日のよい和尚であろうか。生前武蔵と莫逆の友であったというこの和尚は、武蔵の死後二十七年目の正月元旦に死んだものとみえる。