Lettura giapponese

Classici giapponesi con furigana

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ひがんすぎまで

彼岸過迄

夏目 漱石

Leggi 彼岸過迄 (ひがんすぎまで) di Natsume Sōseki (夏目 漱石) in giapponese con furigana. JLPT N2. Tocca una parola per il significato.

N2 · avanzato · kanji e kana moderni · 195.333 caratteri · 385 schermate

Aozora Bunko

十

十

千代子はその中から僕の描いた画を五六枚出して見せた。それは赤い椿だの、紫の東菊だの、色変りのダリヤだので、いずれも単純な花卉の写生に過ぎなかったが、要らない所にわざと手を掛けて、時間の浪費を厭わずに、細かく綺麗に塗り上げた手際は、今の僕から見るとほとんど驚ろくべきものであった。僕はこれほど綿密であった自分の昔に感服した。

「あなたそれを描いて下すった時分は、今よりよっぽど親切だったわね」

千代子は突然こう云った。僕にはその意味がまるで分らなかった。画から眼を上げて、彼女の顔を見ると、彼女も黒い大きな瞳を僕の上にじっと据えていた。僕はどういう訳でそんな事を云うのかと尋ねた。彼女はそれでも答えずに僕の顔を見つめていた。やがていつもより小さな声で「でも近頃頼んだって、そんなに精出して描いては下さらないでしょう」と云った。僕は描くとも描かないとも答えられなかった。ただ腹の中で、彼女の言葉をもっともだと首肯った。

「それでもよくこんな物を丹念にしまっておくね」

「あたし御嫁に行く時も持ってくつもりよ」

僕はこの言葉を聞いて変に悲しくなった。そうしてその悲しい気分が、すぐ千代子の胸に応えそうなのがなお恐ろしかった。