Lettura giapponese

Classici giapponesi con furigana

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おおおかえちぜん

大岡越前

吉川 英治

Leggi 大岡越前 (おおおかえちぜん) di 吉川 英治 (よしかわえいじ) in giapponese con furigana. JLPT N2. Tocca una parola per il significato.

N2 · avanzato · kanji e kana moderni · 218.436 caratteri · 437 schermate

Aozora Bunko

いつ、お袖さまが、また自分のまえに現われるかと、それを怖れてばかりいました……」

「女だ。それはむりもない。咎ではない。罪は、この良人の若い日の過ちにあったのだ」

「いいえ、縫は、沁々、悔いました。――なぜ私はあの時、お袖さまに、あなたを会わせてあげなかったかと。――なお、な、なぜ私はいッそ、もっと深い心から、あなた様を愛さなかったのでございましょう。そしてお袖さまの幸福をも考えてあげれば、今日、こんな苦境にあなた様を追いつめたり、お袖さまの一生を無残なものにすることもなかったでございましょう」

恋に勝ったお縫もまた、決して、完全な幸福ではあり得なかった。いま長年の人知れぬ苦しみを、良人のまえに、心の隅々まで、涙に洗って告白すると、それだけでも、彼女はかすかな安らけさを覚えた。

たれから見ても、かの女は幸福なはずだった。その彼女にも、心の芯を割れば、不幸な虫が棲み、多年不幸に蝕まれていたという。

人間には、完全なる幸福というものはあり得ないものなのか。いや、一方に絶対に不幸な者が作られるのに、その一方側だけが、いかに満足な目的のかたちを遂げても、それは往々、不幸な蝕みを芯に持ちながら、美事な表皮だけを上に持った果肉のような結果を持つのであった。