Classici giapponesi con furigana
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ろうごくのはなよめ
牢獄の花嫁
吉川 英治
Leggi 牢獄の花嫁 (ろうごくのはなよめ) di 吉川 英治 (よしかわえいじ) in giapponese con furigana. JLPT N2. Tocca una parola per il significato.
N2 · avanzato · kanji e kana moderni · 162.213 caratteri · 325 schermate
もう、そんな時刻はありません」
「なに、時刻がないとは」
「されば、今夜ももうだいぶ更けました。実をいうと、郁次郎の生命も、この、星の光が滅するまでです。――夜明けと共に、この藪牢の前で、断罪になることになっています。すでに、御老中のご印可が、きょうの午すぎには下りていたのですが、武士の情けに、一晩だけ延ばしてあるわけなので……」
「えっ! じゃあ何というか、あの、もう御老中たちの、印可まで、下りているのか」
「ごらんなさい」
羅門は指さした。
「――あの樹蔭には、あしたの朝の荒むしろ、水桶、柄杓、血穴を掘る鍬の道具まで、運んで来てあるのです」
「罪だ! 罪だ! 何のうらみがあって、それを、一晩、牢内から見せておくのだ」
「先生――老先生――お気をたしかにしてください。気を、落着けてください」
「離せッ、わしは、こうしてはおられない」
羅門の支える手を、突き飛ばすように払って、彼は、ふらふらと走りだした。
「星よ。星よ」
老先生の白い髯に、深夜の風が、冷々とながれた。わが子を奪う冥途の扉から洩れて来るような風である。
「――明けるな、明けるな、朝になるな。星よ、もういちど、わしが郁次郎の所へ帰って来るまで、その光を失ってくれるな」