Classici giapponesi con furigana
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きどうむかしがたり
綺堂むかし語り
岡本 綺堂
Leggi 綺堂むかし語り (きどうむかしがたり) di 岡本 綺堂 (おかもときどう) in giapponese con furigana. JLPT N2. Tocca una parola per il significato.
N2 · avanzato · kanji e kana moderni · 183.656 caratteri · 363 schermate
四
わたしなども小さい硯や墨や筆をたずさえて行った。もちろん、万年筆などは無い時代である。
こういう不便が多々ある代りに、むかしの温泉宿は病いを養うに足るような、安らかな暢やかな気分に富んでいた。今の温泉宿は万事が便利である代りに、なんとなくがさついて落着きのない、一夜どまりの旅館式になってしまった。
一利一害、まことに已むを得ないのであろう。
四
万事の設備不完全なるは、一々数え立てるまでもないが、肝腎の風呂場とても今日のようなタイル張りや人造石の建築は見られない。どこの風呂場も板張りである。普通の銭湯とちがって温泉であるから、板の間がとかくにぬらぬらする。近来は千人風呂とかプールとか唱えて、競って浴槽を大きく作る傾きがあるが、むかしの浴槽はみな狭い。畢竟、浴客の少なかった為でもあろうが、どこの浴槽も比較的に狭いので、多人数がこみ合った場合には頗る窮屈であった。
電燈のない時代は勿論、その設備が出来てからでも、地方の電燈は電力が十分でないと見えて、夜の風呂場などは濛々たる湯烟にとざされて、人の顔さえもよく見えないくらいである。まして電燈のない温泉場で、うす暗いランプのひかりをたよりに、夜ふけの風呂などに入っていると、山風の声、谷川の音、なんだか薄気味の悪いように感じられることもあった。