Classici giapponesi con furigana
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きどうむかしがたり
綺堂むかし語り
岡本 綺堂
Leggi 綺堂むかし語り (きどうむかしがたり) di 岡本 綺堂 (おかもときどう) in giapponese con furigana. JLPT N2. Tocca una parola per il significato.
N2 · avanzato · kanji e kana moderni · 183.656 caratteri · 363 schermate
雷は縦横無尽に駈けめぐってガラガラとひびいている。文字通りの天地震動である。こんなありさまで、あしたは無事に帰られるかと危ぶまれた。天候の悪いときには幾日も帰られないこともあるが、社務所の倉には十分の食料がたくわえてあるから、決して心配には及ばないと云い聞かされて、心細いなかにも少しく意を強うした。
社務所の人の話に嘘はなかった。さすがの雷雨も十二時を過ぎる頃からだんだんに衰えて、枕もとの時計が一時を知らせる頃には、山のあたりで鹿の鳴く声がきこえた。喜んで窓をあけて見ると、空は拭ったように晴れ渡って、旧暦八月の月が昼のように明るく照らしていた。私はあしたの天気を楽しみながら、窓に倚って徐かに鹿の声を聞いた。その爽かな心持は今も忘れないが、その夜の雷雨のおそろしさも、おなじく忘れ得ない。
白柳秀湖氏の研究によると、東京で最も雷雨の多いのは杉並のあたりであると云う。わたしの知る限りでも、東京で雷雨の多いのは北多摩郡の武蔵野町から杉並区の荻窪、阿佐ヶ谷のあたりであるらしい。甲信盆地で発生した雷雲が武蔵野の空を通過して、房総の沖へ流れ去る。その通路があたかも杉並辺の上空にあたり、下町方面へ進行するにしたがって雷雲も次第に稀薄になるように思われる。