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あわもりものがたり
『たぬき汁』以後
佐藤 垢石
佐藤垢石『『たぬき汁』以後』。同一底本的分册已合并为一书。收入:泡盛物語、岩魚、烏恵寿毛、越後の闘牛、岡ふぐ談、香熊、熊狩名人、猿ヶ京、支那の狸汁、しゃもじ(杓子)、食指談、純情狸、食べもの、飛沙魚、鯰、入社試験、魔味洗心、老狸伝、わが童心、ミミズ酒と美女。
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 118,470 字 · 244 页
しゃもじの出現から消失まで、時間にして一分とはたっていまい。その間、私はわれを忘れていた。恐怖も、圧迫も、戦慄も、なにも感じなかった。
おそらく、茫然としていたのであろう。
ところが、しゃもじが中空で跡型もなく消え失せると同時に、私は背中から冷水を浴びせかけられたような感じに襲われた。四肢に至るまで、全身にふるえがきた。頭は貧血を起こしたか、くらくらと眼がまわった。脳天をうたれた如しだ。
走った。路も田も、畑も堀も、分別なく一目散にわが村へ向かって走った。わが家へ転げこんだのである。
翌日、私は隣村に友人を訪ねた。そして、昨宵の一部始終を物語った。ところが友人は一向にこれを信用しない。
着想として、奇抜だな。昨夜は長考に耽ったことだろう。貴公――。
いや、ほんとうだよ。作りごとじゃない。僕がこの眼で見たんだ。
だが、前代未聞だ。
この会話を、さきほどから友人の祖父が、鉈豆煙管をくわえながらきいていたが、
それは、そらごとでもあるまい。わしは、若いときわしの祖父からきいた話に、殿田用水あたりには、昔から性悪の狸奴がすんでいて、とてつもない物に化けるそうじゃ。