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つばくろ
つばくろ
山本 周五郎
「講談倶楽部 秋の大増刊」大日本雄弁会講談社、1950(昭和25)年9月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 21,987 字 · 44 页
三之助はこう云ったということだ。
「おいちどのは自分には母親であり姉である、おいちどのの気持も恋ではない、母が子を、姉が弟を、劬わり庇う愛情にすぎない、……ここへ来てから二百幾十日、おいちどののゆき届いた介抱を受けて、自分は初めて人間らしい、やすらかな、心あたたまる日を過した、初めて生れて来た甲斐があったと思った、……森さまはこう云ってお泣きなされました、医者も云うとおり、自分はせいぜい今年いっぱいの寿命だろう、おいちどのは潔白だ、あのひとは昔から自分の哀れさに同情していた、無法な懇願を拒むことができなかったほど深く、親身に同情していて呉れたのだ、不貞な気持などは塵ほどもなかった、あのひとの潔白は神仏を証に立ててもよい、……あのひとを頼む、自分が死んだら紀平家へ戻れるようにして呉れ、あのひとを不幸にしないように、……このとおりだ、……森さまは枕の上に顔を伏せて、泣きながら、この爺に頭を下げて、お頼みなされたのでござります」
高雄はすなおに感動して聞いた。三之助の執着は闇討をかけるほど激しいものであった、それが許されてみると恋ではなかったという。彼の態度が異常といってもいいくらいだっただけに、それが恋でなくて、母や姉に対する愛情であったという告白は高雄をすなおに感動させ、些さかの疑念もなくうけいれていいと