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みずぐるま
みずぐるま
山本 周五郎
「面白倶楽部」大日本雄辯會講談社、1954(昭和29)年5月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 27,077 字 · 54 页
背丈はさして伸びず、稽古を続けているので脂肪も付かないが、ぜんたいに柔軟なまるみを帯びてきて、躯つきが娘らしくなった。――道場では相変らずで、活溌にはねまわったり、思いもつかないような悪戯をして、みんなを仰天させたり笑わせたりするらしい。しかも門人全部に好かれているし、先輩たちにまで頼りにされているようであった。ただ一人、中老の娘で緒方せいというのがおり、門中の首席で代師範も勤めていたのが、若尾のにんきのよいのに反感をもったとみえ、ひと頃ひどく意地の悪いことをした。若尾は辛抱づよく(まったく辛抱づよく)気づかないようすで、うけながしていた。そのため、ついには緒方せいのほうが居た堪らなくなり、やがて自分から磯野門を去ってしまった。
道場ではそんなふうであったが、弘田家における彼女はかなり変っていた。
明るい顔つきや、はきはきした挙措は元のとおりであるが、身だしなみに気を使うし、言葉少なになり、特に、和次郎に対してひどく臆病になった。まえにはよく彼の部屋へやって来たし、すすんで話しかけもしたものであるが、いつかしら、そんなこともなくなり、たまに和次郎が話しかけたりすると、顔を赤くし、身を縮めて、眼をあげることもできないといったようすをみせる。