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ゆうれいかしや

ゆうれい貸屋

山本 周五郎

「講談雑誌」博文館、1950(昭和25)年9月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 21,320 字 · 42 页

青空文庫

弥六はどうやらのぼせてきたようすで、へんにむきに坐りなおした。

「むろんこっちは本気なんだが、こちらてえのは具合が悪いなあ、おらあ弥六ってえ者だ、これからあ、そう呼んで貰えてえ」

「あらいやだ、女房が亭主の名を呼ぶ者があるかしら、御夫婦と定ればあなたアって呼ぶわ、そう呼ばせてくれるウ」

「うふふふふ、なんだかぞくぞくしてきやあがる」眼尻を下げてだらしなく笑い、「するってえと、おれはおめえをなんて呼べばいいんだ」

「おまえでもいいけれど、本名はお染っていうの、あたしお染って呼んで貰いたいわ」

「だっておめえ呼び棄てってわけにあいかねえやな」

「あたしが頼むんだからいいじゃないの、ねえ呼んでエ」

「そうか、それじゃあ、お、お染……さん」

「さんなんて付けちゃだめ、そしてもっときつく、お染ッて呼ぶの、ねえ呼んでみて」

「それじゃあ、その、お染ッ」

「ああ嬉しい、あなアたア、もういちど」

さしつ押えつ、蒲焼を肴に飲みだした。幽霊でも酔うものだろうか、お染の蒼い顔がいつかぽっと赤くなり、眼にうるみが出て、身のこなしがますます嬌めかしくなってきた。

「あなたア、あたし酔ったわア、酔ってもいいわね、堪忍してくれるわねッ、御夫婦のかための盃ですもの、そうでしょッ」