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いちしょうにんとして

一商人として

相馬 愛蔵

――所信と体験――

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 114,895 字 · 222 页

青空文庫

月餅の由来

月餅も支那饅頭もこの頃では世間に広く行き渡ったが、私は先年支那に旅して初めてこれを味わい、支那みやげとして売り出したものであった。

私が妻と支那見学に赴いたのは、昭和二年十月、ちょうど新宿に三越支店が乗り出して来た秋であった。当時支那は張作霖の全盛時代で、幣原外相の軟弱外交に足下を見透かされてか、日本人は至るところで馬鹿にされていた。私が奉天北京間の一等寝台券二枚を求めると、その一人分の室は満州兵のために横領され、我々両人はその一夜を寝ずに過ごさねばならなかった。もっともこんな目に遭ったのは我々ばかりでなく、白耳義公使が北京郊外の明の十三陵見物に行って、匪賊のために素裸にされた事件もこの当時であった。

そんなわけで、我々がぜひ見たいと思って行った大同の石仏も、そちらはことに危険だからと留められて、ついに見ずじまいで帰って来たが、北京では坂西閣下や多田中将(当時中佐)の斡旋で、宮殿も秘園も充分に見学し、僅かな日数ではあったけれど、とにかく老大国の支那というものの風貌に接することが出来たのは幸いであった。

この北京見物においても私の興味を惹いたのは、北京城内にある大市場であった。