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いちしょうにんとして

一商人として

相馬 愛蔵

――所信と体験――

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 114,895 字 · 222 页

青空文庫

年末ちん餅の思い出

私どもは何よりもまずよくものを感じ得る心にならねばなりません。その大いなる導きとして私はあなた方の前に、一つの額一枚の皿をも心して備えたいと思うのであります。

年末ちん餅の思い出

年末のちん餅についても、あらゆる科学と機械とを利用した現在の中村屋と、昔日の中村屋とを比較して、まことに隔世の感なきを得ません。

昔は節季の餅は搗きのわるいものとして、おとくいも餅屋も通用して来たものですが、私たちが初めてちん餅をやった時の糯米は、普通の搗き方ではとうてい上糯米の本質を発揮することが出来なかったのです。初め私たちは餅菓子屋の習慣にならって臨時に搗屋を雇ったものです。東京近郊から冬の閑散期一週間を市内の菓子屋に雇われて来る百姓の一団があり、それがみな元気溌剌としてほとんど疲労を知らぬ若者揃いでした。彼らは白いお米で生魚が毎日食べられ、その上一日二円ぐらいの日当がもらえるのだから、いつも来年を約して村に戻って行ったものです。いまの仙川牧場はその頃から御縁がついていたのでした。

さてその元気な人たちが交替に杵を取って搗くのですが、前にもいったように中村屋の糯米は普通品よりも品が硬くてなかなか杵が通らない。