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いちしょうにんとして

一商人として

相馬 愛蔵

――所信と体験――

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 114,895 字 · 222 页

青空文庫

本郷における創業時代

郷里信州を出づ

また「主婦の言葉」は、妻が私の言い漏らしたものを追補する意味で執筆したのであって、これもすべて若き人々への愛より語るものである。妻はさきに「黙移」を著し、相馬一家の自伝的なものはそちらに述べているのであって、本書はどこまでも「一商人として」の著であることを一言しておく。

昭和十三年六月

相馬愛蔵

本郷における創業時代

郷里信州を出づ

孔子は「三十にして立つ」と言われたが、私は三十二歳で初めて商売の道に入った。つい昨日のことのように思うが、それからもう三十七年経ち、今年は六十九歳になった。しかし私はまだ素人だという気がしている。中村屋は今でも素人の店だと思うている。商売に縁のない家に生れ、まるで畑違いの成長をした人間が、どこまでも素人の分を越えないで、こつこつと至って地味に商売をしているのが中村屋である。素人のすることだから花々しいものは何もない。が、この素人は人の後についてここまで歩いて来たのではない。中村屋の商売は人真似ではない。自己の独創をもって歩いて来ている。したがって世間と異うところがあって、何故ああ窮屈に異を樹てるのかと不審がられる向きもあろう。