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いちしょうにんとして

一商人として

相馬 愛蔵

――所信と体験――

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 114,895 字 · 222 页

青空文庫

若き人々へ

借金繰りまわしの苦心

ここで私は少し中村屋創業時代の資金のことについて考えて見たい。『資金さえあればどんな仕事でも出来る』とは人のよくいうところであるが、幸いにどこからか資金が得られたにしても、金には利子がつく。また元金も漸次返却せねばならない。ところが利子も払い元金も返してなお利益のある仕事というものはきわめて少ない。何の仕事にしても、資本を借りてやっていくことはなかなか容易ではないのである。

前にも記せし通り私が、本郷で中村屋を譲り受けた際には、友人望月氏から七百円を借り受け、それに子供の貯金三百円を加えて、都合一千円を資金として商売を始めたのであるが、幸い成績が悪くなかったからそれ以上の金融を必要とせず、国元からはいささかの補助も受けずにやり通せたのである。

その後新宿に移って、今の土地を三千八百円の権利で譲り受け、そこへ今日中村屋の誇りとする欅柱の純日本家屋(新宿足袋屋の店)を譲り受けて追分から移し、裏手にパンと日本菓子の工場を建て、食堂、湯殿等も増築しておよそ三千円を費した。これがすべて借金になったことはいうまでもない。

いまその借金を一々説明する要もないが、とにかく営業の進展とともに流動資本なども大きくなり、やむを得ず家屋を担保として銀行から借りねばならなかった。