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いちしょうにんとして

一商人として

相馬 愛蔵

――所信と体験――

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 114,895 字 · 222 页

青空文庫

また近所へは、のし餅を配り、夜中の騒がしさを一軒一軒お詑びして歩いたものです。

三年目からは電力を用いて搗くことにしたので、搗きが若いという心配はなくなりましたが、今度は機械に故障が生じたら絶対絶命、仕事は全く不可能に陥る。これに対する苦心はまた格別で、手搗き時代の比ではなかった。機械が修繕されるまでみな手を空しくして待たねばならず、いたずらに時間が経って燃料は煙になってしまう。何よりもつらいのは明日の註文が後れて間に合わなくなることでした。損失は諦めるとしても、節季の餅はどちら様でも祝儀のものですから間違いがあってはならぬ、この心配でほんとうに身も細るようでした。

暁方からは配達、近所は籠に入れ自転車で、遠方は大八車でまわりました。雨や雪が降るとその運搬の苦労なこと一通りではなかったのです。その頃は何しろ道がわるく、屋敷町などは泥濘に車輪を喰い込まれて途方にくれることがしばしばで、夜九時過ぎになってやっと戻ることさえありました。南信から来た常どんはその頃まだ十四、五歳、小柄であったが、忙しいからお前も配達しろと先輩にいわれて、餅をのせ自転車で新宿御苑の塀に添うた片側路を雪を蹴って走るうち、中心を失って溝の中に転がり落ちた。