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いちしょうにんとして

一商人として

相馬 愛蔵

――所信と体験――

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 114,895 字 · 222 页

青空文庫

新製品を売り出すまで

メーテルリンクという人の脚本の中には、きっと老い朽ちた老人が、ぼんやりと椅子に腰をかけていねむりをしているのが出ています。そして血気盛りの若者たちが瞬間の後に襲って来る一家の不幸を知らずに笑い興じている時、そのいねむりをしている老人だけは予知していて、自ずと暗示に富んだ独白をする場面がある。正直な無能力者は眼に見えて有能なものより、かえって一段上のつとめをすることがあるのです。これはむろん頂門の一針、主人側の注意すべきことです。

新製品を売り出すまで

世間には自分の店で販売する品を、絶えずあれかこれかと変える人があるようです。中村屋では新しい製品を売り出すまでには、数年少なくも三、四年の月日を研究のためにかけている。例えば松の実にしても主人と二度朝鮮に行ったばかりでなく、これをいかに用いるべきかを研究するのに三年かかり、約一ヶ年というもの松の実の試験を右川学士に依頼し、そこでようやく現在のような製品を得て、自信をもって売り出すことが出来たのです。黒光餅、黒光かきもち、かりんとう、駄菓子、塩釜など、いずれも思いついてから数年を費して研究したもので、最近では蜜豆、しる粉なども相当長い時を経てようやく売り出した次第です。