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いちしょうにんとして

一商人として

相馬 愛蔵

――所信と体験――

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 114,895 字 · 222 页

青空文庫

配達でもすればなおさらのことだ。いうまでもなく家賃、税金、装飾、電燈電話料、従業員の食費給料、むろん主人家族も生活せねばならない。それらの経費を弁ずるために、仕入値におよそ二割を加算するのが、昔から商売の約束とされてある。日本は生活費が安いから二割で足るが、物価の高い米国ではなかなかこの程度では済まない。最低二割五分、上は四割、五割に達して、まず平均が三割二、三分となっている。

とにかく我々の店で薄利多売を主義として理想的の経営をするとしても、最低一割五、六分の経費は必要であって、それに些少の利得を加算して二割の販売差益を受けるのは当然のことである。官吏が俸給を受け技師が設計費を取るのと、何ら異なるところはないのである。

それを小売商人が他の店との競争意識にとらわれて、二割要るところを一割ぐらいにして客を引くと、それでは実際の経費を償うに足らぬのであるから、この無理はどこかへ現れなくてはならない。すなわち問屋の払いを踏み倒すか、雇人の給料を不払いにするか、家賃を滞らすか、いずれにしても不始末は免れないのだ。それゆえ実際の経費以下の利鞘で販売する商人は、真の勉強する商人ではなくて、他に迷惑を及ぼす不都合な商人というべきである。