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ごじゅうのとう

五重塔

幸田 露伴

「国会新聞」1891(明治24)年11月~1892(明治25)年4月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 57,316 字 · 111 页

青空文庫

ことではないとして出かけて来ただけ馬鹿であったか、ハハハ、しかし十兵衛、汝は今日の上人様のあのお言葉をなんと聞いたか、両人でよくよく相談して来よと云われた揚句に長者の二人の児のお話し、それでわざわざ相談に来たが汝も大抵分別はもう定めて居るであろう、我も随分虫持ちだが悟って見ればあの譬諭の通り、尖りあうのは互いにつまらぬこと、まんざら敵同士でもないに身勝手ばかりは我も云わぬ、つまりは和熟した決定のところが欲しいゆえに、我欲は充分折って摧いて思案を凝らして来たものの、なお汝の了見も腹蔵のないところを聞きたく、その上にまたどうともしようと、我も男児なりゃ汚い謀計を腹には持たぬ、真実にこうおもうて来たわ、と言葉をしばしとどめて十兵衛が顔を見るに、俯伏いたままただはい、はいと答うるのみにて、乱鬢の中に五六本の白髪が瞬く燈火の光を受けてちらりちらりと見ゆるばかり。お浪ははや寝し猪の助が枕の方につい坐って、呼吸さえせぬようこれもまた静まりかえり居る淋しさ。かえって遠くに売りあるく鍋焼饂飩の呼び声の、幽かに外方より家の中に浸みこみ来たるほどなりけり。