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ごじゅうのとう

五重塔

幸田 露伴

「国会新聞」1891(明治24)年11月~1892(明治25)年4月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 57,316 字 · 111 页

青空文庫

其二十一

其二十一

紅蓮白蓮の香ゆかしく衣袂に裾に薫り来て、浮葉に露の玉動ぎ立葉に風のそよ吹ける面白の夏の眺望は、赤蜻蛉菱藻を嬲り初霜向うが岡の樹梢を染めてより全然となくなったれど、赭色になりて荷の茎ばかり情のう立てる間に、世を忍びげの白鷺がそろりと歩む姿もおかしく、紺青色に暮れて行く天にようやく輝り出す星を背中に擦って飛ぶ雁の、鳴き渡る音も趣味ある不忍の池の景色を下物のほかの下物にして、客に酒をば亀の子ほど飲まする蓬莱屋の裏二階に、気持のよさそうな顔して欣然と人を待つ男一人。唐桟揃いの淡泊づくりに住吉張りの銀煙管おとなしきは、職人らしき侠気の風の言語挙動に見えながら毫末も下卑ぬ上品質、いずれ親方親方と多くのものに立てらるる棟梁株とは、かねてから知り居る馴染のお伝という女が、さぞお待ち遠でござりましょう、と膳を置きつつ云う世辞を、待つ退屈さに捕えて、待ち遠で待ち遠で堪りきれぬ、ほんとに人の気も知らないで何をして居るであろう、と云えば、それでもお化粧に手間の取れまするが無理はないはず、と云いさしてホホと笑う慣れきった返しの太刀筋。