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いだいなるゆめ

偉大なる夢

江戸川 乱歩

「日の出」新潮社、1943(昭和18)年11月~1944(昭和19)年12月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 117,988 字 · 234 页

青空文庫

併し彼の多年の経験から来た直覚は「こんな手管で化かされてはいかんぞ。油断するでないぞ」と彼の耳元に囁きつづけていた。

韮崎が案内した次の垂幕のうしろには、これは又途方もない代物が待ち構えていた。ただ見る、部屋一杯の真黒な手首である。コンクリートの壁から、突然、奈良の大仏のような大きな手の平が、ニューと突き出ていたのである。

無論生きた巨人の手ではない。鉄板で造った巨大な手首の模型である。今まで玩具の軍艦や玩具の市街など小さなものばかり見せられて来たので、この巨人の手首は本当の大きさの数倍にも感じられ、その巨大感の空恐ろしさに身もすくむ思いであった。仁王のようにパッと拡げた五本の指、真黒な鋼鉄の指、その一本一本の太さは電柱ほどもあり、手の平の幅は人間の背丈に余る大きさである。

「小人島の住民が見たガリバアの手首です。むろんこれではまだ小さすぎるのですが、材料もなく、部屋の大きさも不十分でした。これが今のところ、私にできる精一杯の大きさです。これを更に十倍にし百倍にし、而もそれが生きた人間の手のように動く、巨人国の力学が私の目ざす所です。これはまあ、ごく初歩の見本にすぎないのですよ。