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いだいなるゆめ
偉大なる夢
江戸川 乱歩
「日の出」新潮社、1943(昭和18)年11月~1944(昭和19)年12月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 117,988 字 · 234 页
穴居人
曲者は縄梯子を用いたのに相違ない。そして、見張番の目をかすめ、僅々数分間の早業で目的を果し、いち早く逃走したものであろう。
韮崎庄平ではない。いかな奇術師の彼も、東京と長野県の山中とに、同時に現われることは不可能である。分身の術などというものが現実に行われ得ようとは考えられぬ。別人である。韮崎よりも遙かに実際的な、恐ろしい奴がこの山中をさまよいはじめたのである。
穴居人
その翌日午前十時、五十嵐老博士の逝去が発表せられた。博士夫人は同じ別荘の別室に病臥していたが、まだ高熱が去らず、歩行もむつかしい状態だったので、博士の臨終には看護婦の助けによって、辛うじて枕頭に侍することが出来たばかりであった。新一は行方不明であり、他に呼び寄せるような親戚とてもなく、老博士逝去によって生じた一切の事務は南博士と望月少佐の両人が取りしきってこれに当った。
博士急逝の原因は殊更らには発表せられなかった。多くの人々は曲者によって負わされた傷所の悪化による逝去であろうと考えていた。本当の死因を知っているのは、主治医の外科病院長と、望月少佐と、南博士の三人だけで、南博士の妹の京子や看護婦でさえも、それを打ちあけられてはいなかった。