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いだいなるゆめ
偉大なる夢
江戸川 乱歩
「日の出」新潮社、1943(昭和18)年11月~1944(昭和19)年12月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 117,988 字 · 234 页
新一、わしは今妙なことを思い出したよ。子供の時分、お婆さんから何度も聞かされた昔の富籤の話だ。千両とかの一番籤に当った奴が、嬉しさの余り気が狂ったという話だよ。非常な喜びは人間を気違いにするものだ。だから、今夜はわしも少々気が変になっているのかも知れない。
人間の智慧による航空技術が果しもなく進歩するという事は、謂わば宿命的な必然なのだ。今度の発見にしたって、わしが気づかなければいつかは誰かが気づく筈だ。ただわしは幸運な先鞭をつけたというまでだよ。だが幸運には違いない。殊にこの世界大戦のさなかに、日本人のわしがそれを発見したというのは、何か厳粛な天意のような気がする。わし自身のことは兎も角、おこがましい云い分だが、国家の一大幸運だ。十時間で地球を一周するという、この新しい飛行速度は、確実に戦局を一変させる威力を持っている。今日も戦術の最高権威者がそれを保証せられたくらいだ。
目下の戦局を一変させるということは、つまり歴史を変えることだ。新しい歴史を創造することだ。日本の一技術者五十嵐東三が、五尺に足らぬこのみすぼらしい老人が、世界の歴史を作りかえるということになるのだ。