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いだいなるゆめ

偉大なる夢

江戸川 乱歩

「日の出」新潮社、1943(昭和18)年11月~1944(昭和19)年12月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 117,988 字 · 234 页

青空文庫

「エ、あの椅子とは」

「分りませんか。あの椅子だけに主がなかったのですよ。椅子は七つ、人間は六人、つまり椅子が一つだけ多いのです。来るべき人がまだ来ていなかったのではないでしょうかね。それについて思い出すのは、この上の地下室で耳に受話器をあてていた時、ここから聞えて来た話の内に、彼等の首領ともいうべき人を待っている、やがて来るのを待ちながら話しているという感じがハッキリ出ていたことです」

「アア、あなたはそれをお気附きになったのですね、そうです。我々はあの椅子の主を捉えなければなりません。お考えの通りそいつが首領なのです」

「エッ、君はそこまで知っていたのですか。それじゃ我々は少し早まったのではないかな。首領を逃がしてしまっては……」

「イヤ、逃がしたのではありません。僕はそんなへマはしなかったつもりです」

「エッ、では、それはどこにいるのです。君は居所を知っているのですか」

「待っているのです。ここに待っていれば、今にそいつの方からここへやって来るのです」

新一は非常な自信をもって断言した。望月少佐はこの意外な言葉をさして驚く様子もなく受け入れた。少佐は微笑さえ浮かべて、軽く肯いて見せると、その首領の来着を待ちでもするように、腕を組んで、椅子の背に深く凭れて、黙り込んでしまった。