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いだいなるゆめ

偉大なる夢

江戸川 乱歩

「日の出」新潮社、1943(昭和18)年11月~1944(昭和19)年12月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 117,988 字 · 234 页

青空文庫

山奥の洞穴の中に高手籠手に縛められて監禁されていた新一君が、同時に博士の枕頭に現われて毒薬を盛るなどということは全く不可能としか考えられませんからね。こうして新一君は最後の目的を達したのです」

「どうしてそういうことが出来たのでしょうか」

京子は依然として彼女の所信を捨てなかった。愛人新一の悪業を信じまいとして惨憺たる苦闘をつづけていた。

「極めて簡単です。新一君は監禁などされていなかったからです。或は夜の更けるまであの洞窟の中に隠れていたかも知れません。併しそれは新一君の自由意志によって身を隠していたのに過ぎません。決して縛られてなぞいなかったのです。そして適当な時間に博士の寝室の外に忍び寄り、憲兵の見巡りの隙を窺って、縄梯子で病室の窓によじ登り、カーテンの間から手を入れて毒薬を盛ったのです。

それから六日の間新一君は山中に姿をくらましていた。食事はあの替え玉のけだもののような男が麓の村から運んだのでしょう。その時にはまだ誰もあの男の顔を知らなかったのですからね。そして六日目に、わたしが山中を散歩するのを見すまして、新一君はあの男に自分を縛らせ、猿轡まではめさせて、洞穴の底に横たわっていたというわけですよ」