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いだいなるゆめ

偉大なる夢

江戸川 乱歩

「日の出」新潮社、1943(昭和18)年11月~1944(昭和19)年12月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 117,988 字 · 234 页

青空文庫

ここなら誰も聴く者はありません。安心してお話ができるのです」

「マア、やっぱりそうでしたの」

京子は眉のあたりに皺をよせて、新一の顔を覗き込むようにしながら、思わず身をすり寄せるのであった。

「京子さん、驚いてはいけませんよ。僕らは敵のスパイに狙われているのです。どこから漏れたか、父の仕事が敵側のものに気づかれたのです。そうとしか考えられないような事が度々起るのです」

新一は真剣な低い声で云った。

「マア」

京子はびっくりして、軽い叫び声を発したが、急には信じられない様子で、ただ新一の顔を見つめるばかりであった。

「僕は警視庁の外事課に勤めていたので、よく知っているのですが、敵の諜報網は、厳重な監視の目を潜りぬけて、日本全国に張りめぐらされているのです。いかなる力をもってしても、それを根絶することは出来ないのです。敵国人が殆んど日本から退去した今でも、憲兵隊や外事課が忙しく活動しているのはそのためです。

尤も、僕はまだこの辺で敵のスパイを見たわけではありません。ひょっとしたらおもい過しかも知れません。しかし、僕の直覚がそれを感じるのです。絶えず何者かにつき纒われているような不安を覚えるのです。